創作天文台
文章の二次創作を中心としてオールマイティーに。現在リリカルなのはの二次創作を連載中。極々普通にリンクフリー。
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魔法少年ロジカルなのは10-3(4)
とりあえず部屋の隅に置いてあった椅子をベットの横まで持ってくる。フェイトの機嫌があからさまに悪くなったが、いちいち遠慮していたら息も出来ない。構わず腰掛け、にこりと笑ってみせる。
それを見たフェイトが、ゆっくりと、小さく唇を動かした。
「あなたの、その笑顔」
「え?」
「その笑顔に何度も騙された」
「……はは」
全く持って事実なだけに何も言うことはない。自業自得もいいところだ。怒るわけにもいかず反論も出来ず、なのはは愛想笑いを浮かべ続けるしかない。
とはいえそのままいつまでも笑い続けているという訳にもいかず、この気まずい雰囲気はフェイトの体にも障るだろう。ひとまずフェイトの様子を確認できたなのははこの場を後にすることにした。
「返事が出来るぐらい元気ならよかったよ。あの時のあなたはまるで死んじゃう寸前だったから」
「……」
「……これ以上いても邪魔みたいだね。私はもう行くから、ゆっくり休んで良いよ」
椅子から立ち上がりフェイトに背を向けたなのはは、服の裾を握り止められた。
「……待って」
ぎらりと揺らぐ瞳。憎悪の底に沈んだ戸惑いが見えた。
「どうして私を助けたの?」
なのははわずかに逡巡して、自身確かめるように口上で答えを転がした。
「助けたかったからかな」
「……答えになっていない」
「だとしたら、私も答えなんて持ってないのかもしれない」
理屈の裏付けなどなにもない、感情の赴くがままに従った。結局のところそれ以上でもそれ以下でもない。
強いて言うならばなぜ感情がそう動いたのか、それを知るために助けたのだろう。
「ふざけないで!」
フェイトは激昂してなのはの襟元に掴みかかった。しかしその力は弱々しいばかりで、掴むと言うよりは寄りかかると言った方が正しい程のものだった。痛みによる痙攣もある。
それでもフェイトは手を離そうとせず、怒りとも悲しみとも付かない表情をなのはの顔ににじり寄せた。
「あなたが! 私から全部を取ったのに! 私が欲しかった物は全部なくなっちゃったのに! 何で今頃になって!」
「……」
魔法少年ロジカルなのは10-3(3)
「なのはちゃん」
「は、はいっ!?」
声を裏返らせつつ飛び跳ねたなのはに、声をかけた女性局員も驚いた様子で目を見開いた。
「ど、どうしたのそんなに驚いて」
「いえいえなんでも、なんでもないですよ」
「ホントに? 傷が痛むなら無理はしないほうが」
「大丈夫ですよ! ほら、こんなに元気、はは!」
「そ、そう」
なのはは怖いくらいの笑顔とテンションでがんがんと壁を殴りつける。
特殊合金製の壁にはへこみ一つつかなかったが、女性局員がおぼろげに抱いていた「大人びていて冷静な」なのはのイメージは粉々になった。
「なのはちゃんはあの子の様子を見に来たのよね? 一通り終わったから、もう入って良いわよ」
「そ、そうですか? じゃあ失礼します!」
「え、ええ」
なのはは引きつった笑みを顔に貼り付けて、逃げるように部屋に入っていった。
それを見送った女性局員は、医療班に所属する人間として、なのはの異常行動をどう班長に報告すべきか検討し始めた。
―――――――――――――――――――――――――――
部屋に入り、一度目をつぶって戯けた妄想を完璧に払ってから、なのはは改めてフェイトを見た。
確かに綺麗な顔ではあるが、アリサやすずかと比べれば飛び抜けているわけではない、と思う。少なくとも我を失うほどではない。
(さっきはタイミングが悪かっただけだよね。私もちょっと疲れてるし)
とりあえずそれで納得して、なのははなるべく気軽な体でフェイトに語りかけた。
「さっきはごめんね、無断で入って来ちゃって」
「……」
「別に何も見てないから、気にしなくて良いよ」
「……」
言い終わってから、なのはは自分の失敗を悟った。何故わざわざ思い出したくもないことを掘り返すのか。
やはりまだ調子が戻っていないと冷や汗をかきながら、何事もなかったかのように話題の転換を試みる。
「調子は、どうかな?」
「……」
「あの薬の副作用とかはない?」
「……」
「……ふぅ」
反応を引き出そうと多少つっこんだことを聞いてみても、フェイトはいっこうに口を開かなかった。
なのはも友好的な態度などあり得ないとは思っていたが、こうも無言で睨み付けられるとやや息が詰まった。これまでの戦いを思えば、今すぐかみついてきても不思議ではないのだが。
「は、はいっ!?」
声を裏返らせつつ飛び跳ねたなのはに、声をかけた女性局員も驚いた様子で目を見開いた。
「ど、どうしたのそんなに驚いて」
「いえいえなんでも、なんでもないですよ」
「ホントに? 傷が痛むなら無理はしないほうが」
「大丈夫ですよ! ほら、こんなに元気、はは!」
「そ、そう」
なのはは怖いくらいの笑顔とテンションでがんがんと壁を殴りつける。
特殊合金製の壁にはへこみ一つつかなかったが、女性局員がおぼろげに抱いていた「大人びていて冷静な」なのはのイメージは粉々になった。
「なのはちゃんはあの子の様子を見に来たのよね? 一通り終わったから、もう入って良いわよ」
「そ、そうですか? じゃあ失礼します!」
「え、ええ」
なのはは引きつった笑みを顔に貼り付けて、逃げるように部屋に入っていった。
それを見送った女性局員は、医療班に所属する人間として、なのはの異常行動をどう班長に報告すべきか検討し始めた。
―――――――――――――――――――――――――――
部屋に入り、一度目をつぶって戯けた妄想を完璧に払ってから、なのはは改めてフェイトを見た。
確かに綺麗な顔ではあるが、アリサやすずかと比べれば飛び抜けているわけではない、と思う。少なくとも我を失うほどではない。
(さっきはタイミングが悪かっただけだよね。私もちょっと疲れてるし)
とりあえずそれで納得して、なのははなるべく気軽な体でフェイトに語りかけた。
「さっきはごめんね、無断で入って来ちゃって」
「……」
「別に何も見てないから、気にしなくて良いよ」
「……」
言い終わってから、なのはは自分の失敗を悟った。何故わざわざ思い出したくもないことを掘り返すのか。
やはりまだ調子が戻っていないと冷や汗をかきながら、何事もなかったかのように話題の転換を試みる。
「調子は、どうかな?」
「……」
「あの薬の副作用とかはない?」
「……」
「……ふぅ」
反応を引き出そうと多少つっこんだことを聞いてみても、フェイトはいっこうに口を開かなかった。
なのはも友好的な態度などあり得ないとは思っていたが、こうも無言で睨み付けられるとやや息が詰まった。これまでの戦いを思えば、今すぐかみついてきても不思議ではないのだが。
魔法少年ロジカルなのは10-3(2)
なおも話を続けようとするクロノを遮り、なのははよいしょと椅子から立ち上がった。
「お、おい、どこに行くんだ?」
「フェイトちゃんの所。どこにいるの?」
「彼女なら今は隣の部屋で休ませているが……君もあれだけの戦いをしたんだ、少し休んで」
「なんだすぐそこじゃない。様子、見に行ってもいいよね」
「ちょ、ま、待つんだなのは!」
肩をつかもうとしたクロノの腕をさらりと交わし、なのはは医務室を出ていった。
置いていかれたクロノは伸ばした手を所在なさげにしているうちに、同じくやることがなくなったユーノと目線が重なる。
生暖かい空気が流れた。
「……今まではただのへたれフェレットもどきと思っていたが、君も苦労していたんだな」
「前半部分には大いに異論はあるけど分かってくれて嬉しいよ」
―――――――――――――――――――――――――――
フェイトが休む部屋は歩いて十歩もない。ドアを目前にして、なのははしばしその場にとどまった。
心の準備が必要なほどではなかったが、表情を崩さないための心構えくらいはしたほうがいい。
ふっと浅く息を吐き自分のリズムを意識してから足を踏み出す。
プシュッ
部屋は患者を刺激しないためなのか、金属的なイメージのある他の部屋とは違い、落ち着いた色調で整えられていた。
なのはは部屋の奥にあるベットに目線を移す。そして思わぬ光景に口をぽかんと開けた。
「……あ」
やや髪が長い女性局員が驚いた様子でなのはを見ていた。彼女は手に白いタオルを持ち、脇に置かれた洗面器からは湯気が立っていた。なるほど体を拭いていたのだろう。
誰の?
そんなもの決まっている。この部屋にはあと一人しかいない。
フェイトだ。
「ああ、えと、失礼しました」
意味もなく礼をして回れ右。限りなく走りに近い早足で部屋から出て、壁に寄りかかってずるずる腰を落とす。
ぺたんと床に座り込んで、なのはは息をしていないことに気づいた。
「う、く……ふぅ」
いやまてなにをそんなに慌てていると、なのはは自分の頭を軽く壁にぶつけた。
大げさなくらいの動作で深呼吸する。
大丈夫。上半身裸とは言っても影になってそんなに見えなかったし。
「いや見えなかったとかじゃない……!」
胸に手を置いて目を閉じる。無心になれと自分に言い聞かせる。
しかし暗めの部屋に白磁のような肌は実に栄え、所々に刻まれた痛々しい傷跡は今にも消えてしまいそうな儚さと神秘的な雰囲気を醸し出していた。
そしてその傷を自分が付けたという事実は、罪悪感と共に心の底の黒い感情をくすぐる背徳的な魅惑を生み、味わったことのない感覚を―――
「お、おい、どこに行くんだ?」
「フェイトちゃんの所。どこにいるの?」
「彼女なら今は隣の部屋で休ませているが……君もあれだけの戦いをしたんだ、少し休んで」
「なんだすぐそこじゃない。様子、見に行ってもいいよね」
「ちょ、ま、待つんだなのは!」
肩をつかもうとしたクロノの腕をさらりと交わし、なのはは医務室を出ていった。
置いていかれたクロノは伸ばした手を所在なさげにしているうちに、同じくやることがなくなったユーノと目線が重なる。
生暖かい空気が流れた。
「……今まではただのへたれフェレットもどきと思っていたが、君も苦労していたんだな」
「前半部分には大いに異論はあるけど分かってくれて嬉しいよ」
―――――――――――――――――――――――――――
フェイトが休む部屋は歩いて十歩もない。ドアを目前にして、なのははしばしその場にとどまった。
心の準備が必要なほどではなかったが、表情を崩さないための心構えくらいはしたほうがいい。
ふっと浅く息を吐き自分のリズムを意識してから足を踏み出す。
プシュッ
部屋は患者を刺激しないためなのか、金属的なイメージのある他の部屋とは違い、落ち着いた色調で整えられていた。
なのはは部屋の奥にあるベットに目線を移す。そして思わぬ光景に口をぽかんと開けた。
「……あ」
やや髪が長い女性局員が驚いた様子でなのはを見ていた。彼女は手に白いタオルを持ち、脇に置かれた洗面器からは湯気が立っていた。なるほど体を拭いていたのだろう。
誰の?
そんなもの決まっている。この部屋にはあと一人しかいない。
フェイトだ。
「ああ、えと、失礼しました」
意味もなく礼をして回れ右。限りなく走りに近い早足で部屋から出て、壁に寄りかかってずるずる腰を落とす。
ぺたんと床に座り込んで、なのはは息をしていないことに気づいた。
「う、く……ふぅ」
いやまてなにをそんなに慌てていると、なのはは自分の頭を軽く壁にぶつけた。
大げさなくらいの動作で深呼吸する。
大丈夫。上半身裸とは言っても影になってそんなに見えなかったし。
「いや見えなかったとかじゃない……!」
胸に手を置いて目を閉じる。無心になれと自分に言い聞かせる。
しかし暗めの部屋に白磁のような肌は実に栄え、所々に刻まれた痛々しい傷跡は今にも消えてしまいそうな儚さと神秘的な雰囲気を醸し出していた。
そしてその傷を自分が付けたという事実は、罪悪感と共に心の底の黒い感情をくすぐる背徳的な魅惑を生み、味わったことのない感覚を―――
魔法少年ロジカルなのは10-3(1)
(終わりね)
フェイトとなのはがもつれ合って海中に突入してから一分。大爆発と同時にノイズしか移さなくなったモニターを見て、プレシアは頭の中で呟いた。
至近距離であの爆発に晒されては、強化したとはいえフェイトでは耐えきれないだろう。
なのはも相応のダメージを負ったろうが、あの場には管理局員もいる。敗北は決定的だ。
その時点で興味を失ったプレシアはモニターを閉じた。
(まぁ、こんなものかしらね)
負けはしたが、展開としては悪くない。
あれほどの激しい戦闘をしたのだから、おそらくなのはは疲労しきっているだろう。少なくとも戦力としては二線級に落ちた。欲を言えば管理局側の主力も潰してしまいたかったが、まぁ最初からそこまでうまくいくとは期待していない。
使い捨ての戦力でやっかいな敵を潰せたのだ。これで管理局の脅威は低下した。それでよしとするしかない。
あとの問題はジュエルシードの数だ。
(やはりまだ出力に不安が残る)
手元に確保できているのは九個。これでも次元震は起こせるが、その後の『回廊』安定を行えない。
万全を期すためには、後最低三つ。無論多ければ多いほどいいが、残りの12個のジュエルシード全てが管理局の管理下にある今、実力を持って奪い取るしか残された道はない。
手足としていたフェイトはもう使えない。
となれば残された手段はただ一つ。
ただ一つ、その身をもって。
―――――――――――――――――――――――――――
「―――以上です。報告を終わります」
「了解したわ。任務ご苦労様、下がっていいわよ」
「はっ!」
クロノはリンディのねぎらいに敬礼を返し艦橋を後にした。
廊下を歩く足はやや急ぎがちだ。向かう先は医務室である。
ほどなく医務室に付いたクロノは、ドアが開くと室内を見回した。椅子に座りユーノの治療を受けているなのはと目が合う。
身につけたけが人用の衣服、その所々から包帯がのぞく。
「あ、クロノくん」
「大丈夫か? ……その様子を見る限りでは、あまり大丈夫ではなさそうだが」
「見た目ほど酷くはないよ。それほど深い傷はないし、ユーノ君の治癒魔法が予想外にすごいし」
「はは、僕も普段から怪我が絶えないからね。誰のせいとは言わないけど」
「ふーん、ユーノ君も大変だね」
ユーノはなのはのそしらぬ物言いに頬を引きつらせた。
「すまない。本来民間人である君にそんな怪我を」
「謝る必要なんかないよ。私の意志で決めたことだし、作戦を変更しようと言い出したのも私。完全に自業自得だよ」
「しかし」
「しかしもかかしもないの。これでこの話は終わり。ユーノ君ももういいよ。ありがとうね」
なおも話を続けようとするクロノを遮り、なのははよいしょと椅子から立ち上がった。
フェイトとなのはがもつれ合って海中に突入してから一分。大爆発と同時にノイズしか移さなくなったモニターを見て、プレシアは頭の中で呟いた。
至近距離であの爆発に晒されては、強化したとはいえフェイトでは耐えきれないだろう。
なのはも相応のダメージを負ったろうが、あの場には管理局員もいる。敗北は決定的だ。
その時点で興味を失ったプレシアはモニターを閉じた。
(まぁ、こんなものかしらね)
負けはしたが、展開としては悪くない。
あれほどの激しい戦闘をしたのだから、おそらくなのはは疲労しきっているだろう。少なくとも戦力としては二線級に落ちた。欲を言えば管理局側の主力も潰してしまいたかったが、まぁ最初からそこまでうまくいくとは期待していない。
使い捨ての戦力でやっかいな敵を潰せたのだ。これで管理局の脅威は低下した。それでよしとするしかない。
あとの問題はジュエルシードの数だ。
(やはりまだ出力に不安が残る)
手元に確保できているのは九個。これでも次元震は起こせるが、その後の『回廊』安定を行えない。
万全を期すためには、後最低三つ。無論多ければ多いほどいいが、残りの12個のジュエルシード全てが管理局の管理下にある今、実力を持って奪い取るしか残された道はない。
手足としていたフェイトはもう使えない。
となれば残された手段はただ一つ。
ただ一つ、その身をもって。
―――――――――――――――――――――――――――
「―――以上です。報告を終わります」
「了解したわ。任務ご苦労様、下がっていいわよ」
「はっ!」
クロノはリンディのねぎらいに敬礼を返し艦橋を後にした。
廊下を歩く足はやや急ぎがちだ。向かう先は医務室である。
ほどなく医務室に付いたクロノは、ドアが開くと室内を見回した。椅子に座りユーノの治療を受けているなのはと目が合う。
身につけたけが人用の衣服、その所々から包帯がのぞく。
「あ、クロノくん」
「大丈夫か? ……その様子を見る限りでは、あまり大丈夫ではなさそうだが」
「見た目ほど酷くはないよ。それほど深い傷はないし、ユーノ君の治癒魔法が予想外にすごいし」
「はは、僕も普段から怪我が絶えないからね。誰のせいとは言わないけど」
「ふーん、ユーノ君も大変だね」
ユーノはなのはのそしらぬ物言いに頬を引きつらせた。
「すまない。本来民間人である君にそんな怪我を」
「謝る必要なんかないよ。私の意志で決めたことだし、作戦を変更しようと言い出したのも私。完全に自業自得だよ」
「しかし」
「しかしもかかしもないの。これでこの話は終わり。ユーノ君ももういいよ。ありがとうね」
なおも話を続けようとするクロノを遮り、なのははよいしょと椅子から立ち上がった。
魔法少年ロジカルなのは10-2(10)
(嫌だ……よ)
涙が流れた。
「―――そう」
こんなのは嫌だと彼女は泣いた。ならば、例えそれがどんなに辛いことになるとしても、そうするべきなのだろう。
なのはは一度振り返ると、今にもフェイトに抱きつこうとするアルフを押さえつけた。
「フェイト、フェイトォッ!」
「アルフ、落ち着いて」
「うるさいっ!! フェイトが、フェイトがぁ!」
「分かってるよ、このままじゃフェイトちゃんは死んじゃう。だから早く予備の中和薬を渡して」
「え……!? あっ……!」
「早くっ!」
「あ、ああ」
なのははアルフの手からまるでひったくるように中和薬を受け取ると、フェイトに駆け寄って腕を脇の下にまわして上半身を抱き寄せた。
嚥下が期待できない以上薬を落とし込むしかない。この姿勢ならば重力に従って薬が流れ込んでくれるはずだった。
だがフェイトは意識を失って口元がゆるんでいて、時折の痙攣もある。クロノのように容器を口に入れても問題なく飲ませられるかは疑問だった。
(だったら蓋をしてしまえばいい)
なのはは瞬時に決断すると、栓を噛んで容器から抜きとって中和薬を一気にあおり、躊躇なくフェイトに口に自分の口を重ねた。
「ん……」
隙間を作らないように唇を強く押しつける。フェイトの唇は驚くほど冷たかったが、口内にはまだ熱が残っていた。舌を深く入れ、フェイトの舌が喉を塞がないように押さえておく。痛々しい血の味になのははわずかに眉をひそめ、震える体を優しく抱きしめた。
口から口へととろみがかった中和薬がゆっくりと流れ込んでいく。
「……けほっ」
突然フェイトが咳き込んだ。なのはは慌てず吐き戻された薬を受け止め、もう一度ゆっくり飲み込ませる。
(あれ―――)
フェイトは体の中に流れ込んでくる何かに意識を引き戻された。それは痛いくらいの熱さで凍り付いた体を溶かしていく。
程なくして体中に痛みが戻った。それは死んだはずの感覚が生き返ったことを意味していた。
(これは、誰?)
誰かが自分を抱きしめている。漠然と、そう感じた。
目を開けようと瞼に力を入れるが、途端に猛烈な眠気が襲いかかってきた。今度の眠気は暖かく、心地いい、ひどく安らかなものだった。これには抗いようもない。
それでもわずかに開いた瞳がぼやけた視界を映し出した。
(なの―――は―――?)
もはや夢と現実の狭間を漂う意識の中で、フェイトは最後にその名を呼んだ。
涙が流れた。
「―――そう」
こんなのは嫌だと彼女は泣いた。ならば、例えそれがどんなに辛いことになるとしても、そうするべきなのだろう。
なのはは一度振り返ると、今にもフェイトに抱きつこうとするアルフを押さえつけた。
「フェイト、フェイトォッ!」
「アルフ、落ち着いて」
「うるさいっ!! フェイトが、フェイトがぁ!」
「分かってるよ、このままじゃフェイトちゃんは死んじゃう。だから早く予備の中和薬を渡して」
「え……!? あっ……!」
「早くっ!」
「あ、ああ」
なのははアルフの手からまるでひったくるように中和薬を受け取ると、フェイトに駆け寄って腕を脇の下にまわして上半身を抱き寄せた。
嚥下が期待できない以上薬を落とし込むしかない。この姿勢ならば重力に従って薬が流れ込んでくれるはずだった。
だがフェイトは意識を失って口元がゆるんでいて、時折の痙攣もある。クロノのように容器を口に入れても問題なく飲ませられるかは疑問だった。
(だったら蓋をしてしまえばいい)
なのはは瞬時に決断すると、栓を噛んで容器から抜きとって中和薬を一気にあおり、躊躇なくフェイトに口に自分の口を重ねた。
「ん……」
隙間を作らないように唇を強く押しつける。フェイトの唇は驚くほど冷たかったが、口内にはまだ熱が残っていた。舌を深く入れ、フェイトの舌が喉を塞がないように押さえておく。痛々しい血の味になのははわずかに眉をひそめ、震える体を優しく抱きしめた。
口から口へととろみがかった中和薬がゆっくりと流れ込んでいく。
「……けほっ」
突然フェイトが咳き込んだ。なのはは慌てず吐き戻された薬を受け止め、もう一度ゆっくり飲み込ませる。
(あれ―――)
フェイトは体の中に流れ込んでくる何かに意識を引き戻された。それは痛いくらいの熱さで凍り付いた体を溶かしていく。
程なくして体中に痛みが戻った。それは死んだはずの感覚が生き返ったことを意味していた。
(これは、誰?)
誰かが自分を抱きしめている。漠然と、そう感じた。
目を開けようと瞼に力を入れるが、途端に猛烈な眠気が襲いかかってきた。今度の眠気は暖かく、心地いい、ひどく安らかなものだった。これには抗いようもない。
それでもわずかに開いた瞳がぼやけた視界を映し出した。
(なの―――は―――?)
もはや夢と現実の狭間を漂う意識の中で、フェイトは最後にその名を呼んだ。