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魔法少年ロジカルなのは10-2(9)

 流れ込んでくる中和薬にフェイトは咳き込む。身をよじるがバインドは小揺るぎもしない。だがフェイトは諦めることなく残った全ての魔力をかき集めてバインドのプログラムに介入した。
 ほころびが出来たバインドを、口の中の容器ごと思い切り噛みちぎる。普通のガラスで出来た容器は簡単に壊れ、辺りに中和薬がばらまかれた。

「っ、なんてことを……!」

 クロノの驚きの声ににやりとした笑みを浮かべながら、フェイトは口の中に残ったガラス片を血と共に吐き出した。

「君はそんなに死にたいのか!?」
「母さんの、足手まといには、ならない……!」
「フェイトッ!」

 母の最後の願いすら叶えられず、その上管理局に捕まって邪魔をするなど彼女自身が許せることではなかった。アルフには悪いが、そんなもの、死んだ方がマシだ。
 ―――いや、違う。生きて帰った先にある母との決定的な別離が怖いのだ。こんな副作用がある薬を渡されたということは、つまりそう言うことだ。理性で分かっていたことを感情で覆い隠して戦ってきたが、ここまで来てしまったら、もう自分にすら言い訳できない。
 ざり、と砂利を鳴らしてなのはが目の前に立った。こちらを見下すのは相変わらずの冷たい目だ。
 だが今となっては恐怖もない。あるとすれば最後まで勝ち切ることが出来なかったことが唯一未練だった。

「本当に死ぬ気なの?」

 ああそうだと答えたつもりが上手く喉が動かなかった。喉だけではない。徐々に感覚が死んでいく。
 どうやら限界らしいとどこか他人事のように認識すると、途端、意識の沈下が早まった。世界が暗くなっていく。心が死んでいく。

(暗くて……寒い)

 フェイトはその感覚に覚えがあった。母から突き放されたとき、見放されたとき、自分を必要としてくれる人など誰もいないと知った時の、それは孤独だった。
 この暗がりから逃げたくて、何でもして、それでも逃げられなかった。結局母は最後まで自分のことを必要としてはくれなかったのだ。

(私、頑張った、かな?)

 ぼやけていくなのはの輪郭に、そう問いかける。

(私は弱くなかった? せめて敵としてでも、あなたの中に残れた?)

 問いは闇に飲まれ、答えは返ってこない。

(嫌だな……こんなの)

 最後に、ぽつりと漏らす。

(嫌だ……よ)



涙が流れた。

魔法少年ロジカルなのは10-2(8)

「もう一つっ……!? だめだよフェイト!」
「くっ」

 フェイトの抵抗は抵抗とも感じられないほど弱々しい物だった。見た目相応の力すら残っていない。フェイトはそのまま地面に押さえつけられ、魔法薬はあっけなく地面に転がった。

「離してぇ!」
「フェイト、おとなしくしてくれっ……!」

 しかしフェイトはアルフの拘束から逃れようと必死で暴れる。バインドを使う暇もなく、このままでは薬を飲ませることも出来ない。
 アルフの中で焦りがどんどん大きくなっていく。その時、待ち望んだ声が響いた。

「アルフさん!」
「な、なのは、クロノ!」
(バインドをかける、そこを離れろ)

 アルフは即座にフェイトから離れ、同時にクロノがデバイスを構える。もはやフェイトにそれをかわすだけの力は残されていなかった。バインドは体中に巻き付き、プログラムされた通りに人体の動きを封殺する。

「うぐ、くぅ!」
「無駄だ。暴れたところではずれはしない」

 もとよりバインドは犯罪者を拘束するための魔法である。ほぼ万全な状態のクロノが発動すれば、例え全力時のフェイトとて逃れることは不可能だ。それでも抵抗を続けるフェイトを無視して、クロノはアルフに手を差し出した。

「中和薬を」
「あ、ああ」

 大事に抱えていたうちの一箱を手渡す。クロノは箱を開くと中から中和薬を取り出し、フェイトに歩み寄った。

「これを飲むんだ」
「……断る」
「死ぬぞ」

 フェイトは睨み付けることでそれに答える。その赤い瞳に説得の余地はなかった。

「仕方ないな。無理矢理と言うことになるが」

 クロノはため息をついてバインドのプログラムを変更する。頭部までバインドを延長し、下あごを固定して頭を反らしフェイトの口を開く。そこに蓋を開けた容器を差し込んだ。

魔法少年ロジカルなのは10-2(7)

 アルフの思いが主従のラインを伝ってフェイトに流れていく。フェイトは「そっか」とほんのわずかに表情を和らげた。アルフは命令に従わないことを選んでくれたのだ。使い魔の契約を受けている身で、それがどれだけ重い決断だったろうか。
 本当に、自分には過ぎた使い魔だ。
 だからこそ。もう自分に従ってほしくはない。
 ボロボロになってしまったバルディッシュを手元までたぐり寄せ、震える腕でアルフに向ける。

「フェイト、もう止めよう! どうしてフェイトがそんなになる必要があるんだ!」
「母さんの、ためだから」

 幾度となく繰り返してきた問答。しかしフェイトは自分の口から出た言葉に自嘲せずにはいられなかった。
 母のためなどという綺麗事を隠れ蓑にして、結局、それは母に愛されたいという我が儘だ。

「ダメなんだよ! あいつはもう、フェイトのことを娘だとも思ってない! フェイトの思いを利用してるだけなんだ!」
「違う、よ」
「フェイト!」
「違う!」

 違わない、と頭の中で自分の理性が言う。どれだけがんばっても母が自分を愛してくれることはない。母は自分を見てくれてすらいない。それに比例して大きさを増していく不安と、精神の均衡を保つための理性の声。
 その声はずっと前からフェイトの心を揺らし、その度に頭を振って否定し、その度に少しずつ大きくなってきた物だった。母から冷たい言葉を浴びせかけられる度に、少しずつ凍っていく母の愛の記憶は、今はもう燃えるようななのはへの怒りでしか溶かすことはできなくなっていた。
 その炎すら燃え尽きて灰になろうとしている。

「じゃあどうしてあいつは副作用がないなんて嘘をついて薬を渡したんだい!?」
「……っ、そ、れは」

 抗弁はなにも浮かばなかった。逆に捨て駒や囮といった言葉が頭の中を埋め尽くす。

「早く中和薬を飲まないとフェイトは死んじまうかも知れないんだ! だからもう抵抗はやめてくれ!」
「……」
「死んじゃうんだよ、お願いだ!」
「……それ、でも!」

 愛されていないと言うことを認めるのは、死ぬよりも辛いことだった。
 フェイトは懐からもう一本の試験管を取り出した。小規模な爆発を起こすこともある実験で使用するため製造時に魔法による強化がなされており、バリアジャケットに包まれていたこともあってか、ひびこそ入っていたものの中身は無事だった。
 それは予備の強化薬だった。

「もう一つっ……!?」

魔法少年ロジカルなのは10-2(6)


 少しの間痛みが引くタイミングがあったが、それはあくまで痛みの”波”に過ぎなかった。再び押し寄せる痛みは倍々に増えていく。

「……ぁっ!」

 体の内側から細胞を虱潰しにするような激痛は少しでも油断をすれば発狂してしまいそうで、どんなに物音を立てないようにと意識しても苦悶の声は抑えきれなかった。

「あ、ぎ……ぃ!」

 自分の物とは思えないほど耳障りな声が漏れる。無意識のうちに手に力が入り、爪が寄りかかっていた木の表面を削る。ばちりと爪の一枚が剥がれたが、そちらの痛みは全くと言っていいほど感じなかった。
 痛い。ひたすらに痛い。こんな時こそ冷静にならなければいけないのに思考がどんどん痛みに侵食されていく。

「フェ、フェイト!」

 声に反応することすら今のフェイトには不可能だった。逃げようとしても足は痙攣を繰り返すばかり。魔法も全く使えない。せめてその聞き覚えのある声の主を確認するため、フェイトは視線を動かした。
 視界がぼやけて細かなところは見えなかったが、長年連れ添った使い魔は見間違えようがない。

「アル、フ?」

 がくがくと口を震わせながらも、なんとかその名を呼ぶことが出来た。

「あ、ああ、フェイト、なんでこんな!」

 母の「アルフは逃げた」という言葉は信じられなかったが、積極的に否定もしなかった。仮にアルフが本当に自分を見捨てたのだとしても、アルフが助かるならばそれもいいと思った。どんな結論を出したところで自分の孤独を改めて思い知るようで、諸々の思考は頭の隅に追いやった。
 だがアルフの今にも泣きそうな顔を見ていると、フェイトは途端に申し訳ない気持ちになった。見捨てられたなどと、少しでも考えたことが恥ずかしかった。
 だがアルフに頼ることはもうできない。さしのべられた手を無言で断る。

「だめだよ……私は、アルフの敵なんだ」
「そんなの関係ない、フェイトが幸せになってくれるなら、私は敵でもいいって思って、だから!」

 アルフの思いが主従のラインを伝ってフェイトに流れていく。フェイトは「そっか」とほんのわずかに表情を和らげた。アルフは命令に従わないことを選んでくれたのだ。使い魔の契約を受けている身で、それがどれだけ重い決断だったろうか。
 本当に、自分には過ぎた使い魔だ。

魔法少年ロジカルなのは10-2(5)

「がふっ……げほっ、げほっ……!」

 気管に詰まった水を吐き出すと同時にフェイトの意識は覚醒した。何が起こったのかも分からないまま、体が求めるに任せてひたすら酸素を取り込む。

(ここは……公園? こんなところまで飛ばされたのか……あぐっ!)

 しばらくして呼吸が落ち着き、まずは立ち上がろうとしたフェイトは、全身に走る痛みにたまらず膝をついた。額に脂汗が滲む。体を引きずって近くにあった木までたどり着き寄りかかるが、ただ座っていることも傷だらけの体には辛かった。

(そうか、私はあの爆発を避けきれなくて……)

 頭痛と共に記憶が蘇る。あの時とっさに行った可能な限りの対処は、ばかげた威力を前にして全てが粉砕された。バリアは一瞬で限界を迎え、フェイトは耐えることを放棄した。バリアが破られるならば吹き飛ばされた方が多少は衝撃を受け流せるはずだった。
 しかし爆発の威力はそういった小細工を全く問題としなかった。ただでさえ強力な砲撃を全方位から打ち込まれたようなものなのだ。それがいかなる結果をもたらすかはフェイトも承知していたが、十分な対処にあてる時間も方法も存在しなかった。
 フェイトの意識は一瞬でブレーカーを落とし、気づけばこうして地べたに這いつくばっていた。

(ここにいたらすぐに見つかる……逃げな、きゃ……)

 フェイトはなんとか体を動かそうと何度も試みたが、そのたびに四肢が痙攣して立ち上がることすら出来ない。肉体の補助に使うべき魔力はリンカーコアから根こそぎ失われていた。
 体は回復するどころが、いくら呼吸を落ち着けようとしても苦しさは増すばかりだった。追い打ちをかけるように筋が引きちぎられるような激痛がフェイトの体を蝕んでいく。
 それは爆発によるものとは明らかに性質が異なる痛みだった。

(まさか……薬の副作用?)

 母が自分のために特別に作ってくれた薬。副作用の心配はないと優しい顔で渡してくれた薬。
 そんな薬だからこそどんなに効果が強力でも、それがどんな結果をもたらすかなど考えず、沸き上がる力に身を任せた。自分の体のことなどかけらも省みなかった。全ては母への信頼が故。

(違う……だって母さんは特別な薬だって言った、私を心配して、私のために安全な薬を作ってくれた! これはあの爆発のダメージなんだ……!)

 フェイトが心の中でどんなに自分を騙そうとしても、痛みは残酷なまでに明確な現実をフェイトに続ける。

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